コラム

保育無償化 誰のため? 所得水準で恩恵に差(日経新聞電子版)

所得水準で受ける恩恵の差など気にしなくて良いのです。

保育園を無償かするのであれば、無償化すればいいだけの話です。

所得差を考慮して制度を変えていくと、そこに対応するコストもかかります。

日本では、高所得者からより沢山税金を取ろう、高所得者なのだから、制度的な恩恵を受けるべきではない、と考えられがちです。

しかし、これは完全に誤りです。

高所得者が沢山集まり、高所得者に恩恵が得られるような仕組みを作ることで経済が活性化します。

その結果、低所得者層にも恩恵があるのです。

日本では低所得者に富を分配する工夫をしており、これでは経済を潤わせるはずの高所得者が集まりません。

香港やシンガポールのような高所得者の集め方をしてほしいところです。

お金持ちが集まる。

お金持ちがお金を使う。

こうすることで低所得者にも恩恵がいくようになります。

日経新聞電子版記事

2017年10月29日掲載。

保育無償化 誰のため? 所得水準で恩恵に差
自治体負担、国が肩代わり

安倍晋三首相が表明した3~5歳の保育所の無償化の意味を巡って、波紋が広がり始めている。保育料の負担額は親の年収などに応じて異なるため、今回の無償化の恩恵を所得の高い世帯ほど得ることになる。これまで保育サービスを利用していなかった家庭が利用し始め、保育所がさらに不足しかねない。12月にまとめる制度設計が注目される。

「3歳から5歳児の幼稚園、保育所について全面無償化します」。安倍首相は9月末、衆院解散にともなう記者会見でこう表明した。0~2歳は低所得世帯に限って、3~5歳については全ての世帯で保育料をタダにするという。ただ、無償化の意味を巡っては詳細な説明はなかった。

現在の3~5歳の保育料の負担は世帯収入が高いほど大きい。生活保護世帯はゼロ、年収約260万円未満の住民税非課税世帯の場合の保育料は年7万2千円だが、年収約1130万円以上の世帯では最大年121万2千円を支払っている。

無償化が全額補填を意味するなら、高額所得世帯は年間100万円以上もの負担減になる。金額にして、年収約1130万円以上の世帯は年収約260万円未満の世帯の実に17倍の恩恵を受ける。一方、生活保護世帯では今回の恩恵はゼロだ。

3~5歳の子どもが通う幼稚園の無償化は一律で、月の平均保育料(2万5700円)が補助される見通しだ。

当面の保育料がタダになれば若い世代が子どもを産み育てる経済的な負担感を減らせる。消費増税のタイミングで家計負担を軽くし、消費低迷を抑える思惑もある。

SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、仮に19年度に無償化で家計負担が約1兆円軽くなり半分が消費に回るなら、実質国内総生産(GDP)を0.1%押し上げる効果があるという。ただ、安倍首相の表明以降、与党内からも「年収が高い世帯の負担が減っても貯蓄に回るだけ。所得再分配にも逆行する」との批判も相次ぐ。

実は無償化の恩恵の4~5割は自治体が受ける。既に子育て世代を呼び込もうと保育料を補助する地方自治体は多い。大阪府守口市は今年4月、全国の市で初めて0~5歳児の幼稚園と保育所を全額タダにした。この負担を国が肩代わりする。20年度の基礎的財政収支は高い経済成長が続いた場合でも国は13.6兆円の赤字が残るが地方は5.5兆円の黒字を保つ。

無償化に伴って国が拠出する金額は12月にならないと確定しない。仮に5千億円を保育所整備に回すと50万人分の保育の受け皿をつくることができる。限られた財源だからこそ、子育て世代が本当に必要とするサービスが行き渡るような施策が求められる。

送迎ステーションを使えば、親は送り迎えができない郊外の施設にも子どもを預けられるようになる

■待機児童どう減らす

待機児童は2017年4月時点で2万6081人と、前年から約1割増えた。無償化で保育所の利用者が増える可能性は高い。

10月上旬の朝7時ごろ。小田急線町田駅近くの保育ステーション「つながり送迎保育園」に子どもをつれたママやパパが集まってきた。東京都町田市が待機児童を解消すべく、10月に設けた保育所の出張所だ。施設と利用希望者の所在地のミスマッチで利用されない保育枠を余す所なく使う。

朝夕は働く親と子を結ぶ中継点となり、親から預かった子どもを遠方の保育所にバスで送迎する。「これで一時預かりなどを含め、合計40人分の定員枠を用意できた」(町田市役所の押切健二さん)

国も手をこまぬいているわけではない。17年度は1兆5千億円の公費を投じ、11万人分の施設を増やした。それでも待機児童は増える一方だ。

利用者が求めているのは、無償化より保育サービスの受け皿だ。いまあえて「保育料の適正化」を唱える声もある。認可保育所の親の保育料負担は0歳児で費用全体の2割弱、全体でも3割程度。昭和女子大学の八代尚宏氏は「サービスに見合った適正な保育料を考えるべきだ」と指摘する。

低所得者層は別として、例えば0歳児の個人負担分を増やし、育児休業や保育ママをうまく活用する人を増やせば、その財源を待機が多い1~2歳児に向けることも可能だ。

(矢崎日子)