持ち家は資産になるのか、ならないのか、については、ならない可能性の方が高いのです。
30代から40代にかけて、マイホームを購入するのは当たり前のような風潮があります。
これは極めて危険です。
時期、場所、価格の選択を誤ると、資産どころか負債となります。
十分に注意してください。
マイホームは買わない選択肢もあることを忘れないでください。
現代ビジネス
2017年8月29日掲載。
持家は本当に「将来資産になる」のか。
いままでは、当たり前のように「住宅を買わなくては」と多くの人が考えてきた。賃貸住宅に居住していても家賃は毎月捨てるだけ。同じくらいの金額の負担をするのであれば、「持家」に払ったほうが将来資産になる――と多くの人が考えてきたからだ。
とりわけ、近年都心部に続々建設されたタワーマンション(タワマン)は、都心居住の象徴として人気が高い。またタワマンを買った多くの人が、将来自分が手に入れたマンションが「値上がり」することを期待しているという。
本当に「将来資産になる」のだろうか。先ほどの事例で考えてみよう。
このマンションの1戸当たりの面積は平均23坪(約76平方メートル)、分譲価格は7000万円だ。ここで、同じエリアに建つ別のマンションの賃貸物件を調べてみると、築8年で同じ面積の部屋が、月額賃料約20万円で賃貸に出されている。
話を簡単にするために、持家として取得するお金を全額、期間25年の住宅ローンで調達するとしよう。また、安全性を考えて期間中を固定金利として、現行の金利1.69%を適用する。毎月返済額は28万6247円(元利均等返済)になる。年間返済額にして約343万円の負担だ。
いっぽう、賃貸案件だと年間賃料は240万円。更新料として2年ごと月額賃料の1カ月分(20万円)を負担したとしても、年間負担額は250万円ということになる。
持家の場合、これに加えて、管理費と修繕積立金で月額約3万円、年間で36万円の負担が必要になる。さらに固定資産税等で年間20万円ほどかかる。したがって、年間の総負担額は約400万円にもなる。金利変動がない好条件のもとですら、マンションを自分のものにできるまで、総額約8587万円を支払わなくてはならないのだ。
最近では住宅ローン減税という新築優遇税制があるが、それとて住宅ローン残高の1%(最大控除額年40万円)かつ10年間の措置にすぎないので、全体の支払額に貢献する割合はそれほどではない。
これが賃貸住宅の場合、住んでいるマンションは自分の資産にはならないものの、住むためのコストだと割り切れば、25年間で6250万円の賃料を支払うだけでいい。
手元に残るのは「築25年のマンション」
資産価値が上がらない時代、せめて価値の劣化を防ぐための修繕工事費がかさむようになる。
さて、本当に大事なのはここからだ。
ここまでの比較で明らかになったように、賃貸より25年間で約2337万円も多くのお金をつぎ込んだとしても、「26年目からは自分の資産になる」というのが、“持家有利”論の根拠となっている。たしかに、賃貸住宅は26年目以降も賃貸住宅だ。
しかし、大切なのはこの25年間という時間である。25年後、ついに自分のものとなったマンションはどんな資産になっているのか。そのことに想いをめぐらす人はあまりいない。
ローン完済後に眼前にそびえ立つのは、経年劣化が著しくなった「築25年のマンション」だ。これまで低廉に抑えられてきた修繕積立金も、値上げがくり返されていることだろう。一部のブランド立地のマンションを除いて、資産価値が上昇する可能性がほとんど期待できないなか、(資産価値を維持向上させる)大規模修繕工事のための追加費用が必要になるからだ。
1100戸にもおよぶ入居者世帯も、25年もたてば時代の変化の波にさらされる。全員が同じように希望を持って取得した湾岸タワーマンションも、すっかりコモディティ(汎用品)と化していることだろう。
ローン金利も含めて多額のお金をつぎ込んだマンションだが、取得価額並みの価値を保持するのは正直かなり難しい。それどころか、建物代が不動産価値の多く(上の試算では4分の3)を占めるタワーマンションは、25年もたてば、建物の劣化によりその価値が半分以下になっていてもまったく不思議ではない。
純粋に資産価値に重点をおいた「投資」としてとらえた場合、25年後に取得価額を維持できず、場合によっては半額くらいに元本が減じてしまう投資商品は、本来誰も買わないだろう。
自分が「住む」だけの利用価値を考えるならば、ごく一部のエリアを除いて、マンションという資産はあまり魅力的なものとは言いがたいというのが筆者の結論だ。
ましてや、長年のローン支払いから解放されてからも、維持修繕費やマンション内の空き住戸問題、管理費未納・滞納問題など、自分はちゃんとやっていても他人のせいで居住環境の維持が難しくなるような資産である。本来、所有することには慎重になったほうがよいのかもしれない。
「マンションは賃貸用資産」が常識になる
賃貸住宅としてのマンションは、借りる側にとってはまことに都合のよいものだ。
利便性がよく、住戸の管理がしやすく、安全性の高いマンションは、都会の棲家としては格好の住宅だ。自身の人生の変化、リストラにあう、事故でけがをする、病気になる、地震などの天変地異に遭遇する、などなどのリスクが身にふりかかったとしても、住み替えてしまえば大きな負担を背負い込む心配はない。
25年後、子どもがいたとしても、すでに独立して夫婦二人で暮らしているケースが多いだろう。場合によっては、妻と離婚しているかもしれない。病気になっているかもしれない。人生には想定しなかったようなさまざまなリスクがあるものだ。その時々の状況に応じて、自分の身の丈にあった住居に住み替えていくには、賃貸住宅は利用価値が高い。
もちろん、高齢になると、賃貸住宅に申し込んでも、年齢を理由に入居を断られるケースが増えるのは事実である。しかし、それも「いま」という時代において事実、というだけのことだ。
人口減と高齢化が進む日本では、今後も空き家が増え続け、「貸し先」に困ったマンション所有者の多くが、高齢者(や外国人)の入居を拒むどころか、廉価で賃貸する社会がやってくるだろう。
ローン完済後に、老朽化した建物の維持管理に頭を悩ます必要もなく、家賃は住むための「必要コスト」と割り切れば、考え方も劇的に変わってくるはずだ。
こうやって考えてみると、マンションは賃貸資産として考えるのが一番自然かもしれない。
買って住むのではなく、借りて住む。または所有して人に貸して運用する。一定年限のなかで確実に収益を上げ、建物の償却を享受すれば、賃貸資産としては決して悪い資産ではない。
そのためにはやはり都心部で交通利便性の高いマンションが賃貸用としては優位になる。マンションは立地のよい賃貸用資産、という概念が実はこれからの「常識」となるのかもしれない。