想定賃料とは、現時点で入居者のいない物件に使われる言葉です。
「想定」なので、仮に入居者を募集した場合、この程度の賃料で入居するであろうと予想して出している賃料に過ぎません。
既に入居者がいる物件を、オーナーチェンジ物件と呼びます。
想定賃料なのか、オーナーチェンジなのか、この違いは大切になります。
「想定」が「想定外」になってしまった場合、どのような影響が出るのでしょうか。
想定賃料の誤差による影響
想定賃料10万円の物件があったとします。
いざ購入して賃料10万円で募集しても、入居者が付きません。
長らく入居者を募集した結果、9.7万円の賃料で入居者が決まりました。
当初想定していた想定賃料よりも、3%安い賃料になりました。
不動産購入を検討していたときには、想定賃料10万円で作成していたはずの収支計画が、いきなり崩れるのです。
「0.3万円でしょ」と思われるかもしれませんが、賃料3%がもたらす影響は非常に大きく、無視できません。
さて、どのように影響してくるのでしょうか。
毎月の賃料が0.3万円少ないので、取れる賃料が年間3.6万円(0.3万円×12カ月)少なくなります。
敷金や礼金、更新料も賃料に比例するため、このような入金も0.3万円分少なくなります。
年間3.6万円の家賃収入減。
これだけだと、まだそこまで大きな影響はないように見えます。
しかし、毎年取れる家賃収入が減ること以外への影響があります。それは販売価格です。
想定賃料10万円で買った物件の賃料が、実際は9.7万円であった場合、購入時点で損をしている可能性があるのです。
販売価格とは、多くの場合、周辺の物件利回りと比較して決められています。
想定賃料10万円と、実際の賃料9.7万円で、販売価格はどの程度違うのでしょうか。
周辺マンション相場を、利回り7%とし、比較対象とするマンションの諸条件はほとんど等しいものとします。
【想定賃料10万円】
賃料が10万円なので、年間120万円の家賃収入になります。
周辺利回りが7%であるため、7%の利回りで販売価格を計算すると、約1714.3万円になります(120万円÷7%)。
【賃料9.7万円】
賃料が9.7万円なので、年間116.4万円の家賃収入になります。
周辺利回りが7%であるため、7%の利回りで販売価格を計算すると、約1669.2万円になります(116.4万円÷7%)。
なんと、わずか0.3万円の家賃の違いで、販売価格には51.4万円の開きが出てくるのです。
想定賃料10万円で購入した物件の、実際の家賃が9.7万円になってしまった場合、購入した瞬間に51.4万円の損失が出ていることになるのです。
ここまでくると少し数字が大きくなってきました。これほど賃料の誤差は影響があるのです。
新築想定賃料に注意
新築想定賃料は、意図的に高く設定されている場合があるので、注意が必要です。
販売価格は、前述の通り、賃料がベースになっていることが多くあります。
このため、賃料を高くすれば、販売価格も高くできるのです。
この原則を、悪意を持って使う不動産業者もいます。
特に、新築アパートのような場合、購入を検討する時点で入居者はいません。
すると、全ての部屋の賃料は「想定」になります。
アパートの場合は規模も大きく、想定賃料を誤ると、受ける被害も大きくなります。
先ほどの例同様、賃料に3%の誤差があったとします。
【賃料総額50万円のアパート】
賃料の総額が50万円なので、年間600万円の家賃収入になります。
周辺利回りが7%であるため、7%の利回りで販売価格を計算すると、約8571.4万円になります(600万円÷7%)。
【賃料総額が48.5万円のアパート】
賃料総額50万円の97%は、48.5万円です。
3%の誤差があると、毎月1.5万円賃料が少なくなります。
48.5万円の賃料なので、年間582万円の家賃収入になります。
周辺利回りが7%であるため、7%の利回りで販売価格を計算すると、約8314.3万円になります(582万円÷7%)。
差額はなんと257.1万円です。
いよいよ恐ろしい差になってきました。
想定賃料を意図的に吊り上げると、販売価格を簡単に数百万円吊り上げることができるのです。
新築プレミアム
新築プレミアムという言葉を聞いたことはありますか?
日本人は相変わらず新築思考が多いため、新築であれば、割高でも売れたりします。
また、割高な賃料でも入居者が決まることもあります。
この「割高」をプレミアムと呼んでいます。
それでは、新築で入居が付いた後、その入居者が退去するとどうなるのでしょうか。
新築プレミアムはなくなります。
プレミアムがなくなると、割高であった賃料が削られます(賃料が下がります)。
賃料が下がるとどうなるのでしょうか。
既にお分かりだと思いますが、賃料の下落は販売価格に直接影響してきます。
所有中の物件を売るときの価格が落ちることを意味します。
新築プレミアム想定で算出された想定賃料で物件を購入してしまうと、中古になったとたん、値下がりします。
前述した原則と同じです。
賃料から利回りが計算され、それが販売価格に反映されます。
新築プレミアム賃料がなくなると、賃料が下がるので、価格も下がるのです。
但し、良心的な不動産業者の場合、予め想定している賃料が辛めである場合もあります。
そのような不動産業者の物件であれば、問題ないでしょう。
自分自身で賃料を算出する時も、辛めで計算し、それでも問題なければ購入を検討すればよいでしょう。
まとめ
賃料から逆算して販売価格を決める業者が多くなってきています。
買主に利回り星人(利回りだけで物件を判断する人)が増えてきているのも要因の一つだと思います。
利回りが高い物件が売れやすい = どうしたら利回りの高い物件が作り出せるのか
or
どうしたら利回りを高く見せることができるのか
が工夫されるようになってきていると思います。
想定賃料に計算ミスがあると、物件の販売価格に影響してきます。
不動産業者の出す想定賃料ではなく、自分自身で周辺を確認し、想定賃料が適正なのか、数年後もある程度維持できそうな水準なのか、を確認しておいてください。
新築を購入する場合は中古と異なり、購入時に賃借人はいません。
このため、もし今貸したらどのくらいの賃料が取れるか、を基準に想定賃料が設定されています。
想定賃料は販売する側が設定しており、鵜呑みにして資金計画を立てると危険です。